先日、2ndアルバム『KOE』をリリースした歌手の佐藤千亜妃さん。4人組バンド「きのこ帝国」(2019年5月27日に活動休止を発表)というバンドのボーカル/ギター/作詞作曲を務め、現在はソロで活動されています。最近だと、アルバムにも収録されている「カタワレ」が連続ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系)の主題歌になるなど、第一線で活動されている佐藤さんですが、実は盛岡出身! きのこ帝国の曲「桜が咲く前に」のPVに盛岡バスセンターが使われていたり、そのほかの曲にも度々岩手に関するモチーフが出てきたりと、かねてよりご自身の音楽活動の中で岩手・盛岡を登場させてきた佐藤さんに、盛岡への愛と思いを伺ってきました。
盛岡駅の地下で路上ライブをしていた学生時代
——今日はよろしくお願いします。最近、盛岡って帰られましたか?
コロナ禍になってからは、なかなか帰れてないですね。その前は、年末くらいしか時間が取れないのですが、年に1回は帰っていましたね。実家がかなり奥の方なので、盛岡の市街部まで行くことはそんなにないのですが、白龍のじゃじゃ麺を食べたくて年末年始の雪の中並んだりしたこともありました。あとは、コロナになる前くらいに、厄払い兼小中学校の同窓会で八幡宮に行ったりもしていましたね。
——盛岡にいらっしゃったのは高校1年生の頃までということですが、その時はどのあたりが行動範囲だったんでしょうか?
記憶に残っているのは、盛岡駅の地下のところですね。そこで中3くらいから路上ライブをやっていました。「まねきねこ」というユニット名で同級生といっしょに活動していて、毎週土曜日の18時とかに、盛岡駅正面のすり鉢状の階段を降りたところで歌っていましたね。その頃、盛岡の路上ライブシーンがにわかに熱くなっていて、何組もいたんですよ。高校生や専門学校生がメインだったので、私たちはほぼ最年少くらいだったと思います。場所取り合戦もあったりして、若手は端っこでやったり(笑) 基本的には毎週やっていたので、固定のお客さんもいたりして、そういうストリートのコミュニティが、盛岡時代の思い出としてありますね。
——その時はどんな曲を演奏していたのでしょうか?
オリジナルもやってましたけど、カバーメインでしたね。当時はゆずや19みたいなフォークデュオが全盛だったので、自分たちもそういった曲をやってました。そのころは自分でバンドを組んだりはしていなかったので、いわゆるストリート的な曲が多かったと思います。でも、当時聴いていたのは、ブラックミュージックや宇多田ヒカルさん・椎名林檎さんなどの女性シンガーが多かったですね。
——僕が佐藤さんを知ったのはきのこ帝国からだったのですが、その頃はバンドとかも組んでいたのでしょうか?
いえ、その時は組んでいませんでした。軽音楽愛好会みたいなものは学校にあって、そこでギターを弾いたりはしていたんですが、自分でバンドを組んでというのはなかったですね。でも、ライブハウスは時々先輩の演奏を聴きに行ったりしていましたよ。CLUB CHANGEとかですね。
——他に盛岡で印象に残っている場所はありますか?
あとは、やっぱり大通りですかね。学校終わりでカラオケに週4くらいで行っていました(笑) SEGAやサンシャインもよく行っていましたね。よくみんなでプリクラを撮っていました。
地元をフォローアップしたい
——「春と修羅」「桜が咲く前に」「空から落ちる星のように」など、バンド時代から含めて佐藤さんが作られた曲の中には、しばしば盛岡や岩手に関連するモチーフが登場しています。あらためて、盛岡や岩手というのは、佐藤さんの音楽活動にとってどのような存在なのでしょうか?
やっぱり、まずは生まれ育った場所であり、過去を思い返すと自然と情景として出てくるような場所ですね。高校1年生の時に上京したんですが、もともと上京志向はなかったんです。岩手の自然の感じや街並みというのが元から結構好きで、仕事上許されるなら、今も岩手に帰って活動したいくらいです。音楽をアウトプットする時も、無意識的に混ざってくるような存在だと思います。
——上京やその後の音楽活動を通して、盛岡に対するスタンスって変わったりしましたか?
変わったと思います。一番大きかったのは震災ですね。震災以前は単純に故郷というか、帰る場所であって、ずっとなくならずに自分を支えてくれているような存在でした。それが、必ずしもそうではないのかもしれない、ずっとあるものではないのかもしれないと思うようになったきっかけが震災でしたね。
あとは、震災直後よく言われていたことですが、ミュージシャンとして「衣食住が整っていないような状況で、音楽に何ができるのか」「電気が足りていないような状況で、アンプにギターをつないで演奏していいのか」という葛藤はすごくありました。そういう中で作った音楽って説得力があるのかな、聴いてくれた人にとってパワーになるのかな、みたいな無力さも感じましたね。あとは、自分にもっとネームバリューがあったらチャリティのような形で支援することができたのかもしれないなと思うと、自分の立ち位置について不甲斐ない気持ちになることもありました。
でも、今振り返ると、そういった経験を踏まえて、もっとも盛岡や岩手のことをフォローアップしていきたいなと思うようになりましたね。帰る場所や支えてくれる場所というところから、自分の活動を通して勇気やエネルギーを注ぎ返していきたい場所になっていったと思います。
——このサイトも盛岡をフォローアップしていきたいという気持ちで作っていますが、佐藤さんにそう言っていただけるとすごく勇気付けられます。
なんというか、そういう年齢なのかもしれませんね。自分の音楽をみんなに届けることで、「盛岡から出たアーティストなんだよ」と言ってもらえて、そういったことからよい循環が生まれたらいいな、なんて考えるようになりました。
2ndアルバム『KOE』に込めた思い
——今回リリースされた2ndアルバム『KOE』についてお伺いできればと思います。今回の作品を作るにあたっては、どういう思いやコンセプトがあったのでしょうか?
前のアルバム(『PLANET』)より前から、「声」にフィーチャーしたアルバムを作りたいなと思っていました。今回、そういう構想で走り始めたんですが、制作に入ったあたりでコロナ禍になってしまったんですね。ステイホーム期間の中で、音楽仲間が亡くなってしまったり、世の中でもショッキングな事件があったりして、ふさぎこみがちな日々が続きました。その中で、声は声でも、「声にならない声」や「心の中の声」のような、一歩踏み込んだ部分を表現したいと思い、できたのがこの作品です。そういう意味では、コロナ禍があったからこそ、よりパーソナルなテイストが出ていると思います。
——シングルカットもされている「声」の歌詞の「いつもより寒いのは 春の夢を見たから」という歌詞は、北国の人だから書ける歌詞だな、なんて思いました。
ありがとうございます。嬉しいです。その詞は、書いた時に自分でもいい表現ができたなと思った箇所でした。こういうふうに春を焦がれている感じは、寒い雪国を経験しないとなかなか表現するのが難しい箇所かもしれませんね。
——盛岡でもぜひライブしてほしいです。
やりたいです! 最後に盛岡でライブをしたのが2019年で、その時が初の凱旋ライブだったんですね。バンドを組んでいた時も行ったことがありませんでした。早く2回目も行きたいなと思っています。
——盛岡のファンも待っていると思います! 最後に「リトルもりおか」の読者に一言いただけますか。
このアルバムを作りながら、自分でも救われる瞬間が多々ありました。隣で寄り添ってくれる友達・親友みたいな作品になっていると思うので、聴いてくれた人にとっても同じような存在になっていたらいいな、と思います。
聞き手・ナカムラ コウタ
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【作品情報】
2nd Full Album「KOE」
2021年9月15日(水)発売
通常盤(CDのみ): UPCH-20592 /¥3,300(tax in)
初回限定盤(CD + Blu-ray):UPCH-29408 / ¥6,380(tax in)
※映像のみプレイパス(R)対応
(プレイパス(R)…Blu-rayの映像をスマホで簡単にストリーミングもしくはダウンロード再生することができるサービスです。)
■CD収録楽曲
1. Who Am I
2. rainy rainy rainy blues
3. 声
4. カタワレ(フジテレビ系4月期木曜劇場『レンアイ漫画家』主題歌)
5. 甘い煙
6. 転がるビー玉(「NYLON JAPAN」創刊15周年プロジェクト映画『転がるビー玉』主題歌)
7. リナリア
8. 棺
9. Love her…
10. 愛が通り過ぎて
11. ランドマーク
12. 橙ラプソディー
■Blu-ray Disc収録楽曲(初回限定盤のみ)
1. PLANET
2. Summer Gate
3. Lovin’ You
4. You Make Me Happy
5. リナリア
6. 橙ラプソディー
7. 転がるビー玉
8. 面
9. Spangle
10. lak
11. 空から落ちる星のように
12. 大キライ
13. キスをする
14. 春と修羅
15. 夏の夜の街
<『KOE』特設サイト>
https://sp.universal-music.co.jp/chiaki-sato/koe/
<Music video>
「Who Am I」Music Video
「橙ラプソディー」(Lyric Video)
「rainy rainy rainy blues」(Lyric Video)