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【盛岡本】4月13日からアニメ放送開始!歌人・石川啄木が名探偵で相棒は金田一京助の「啄木鳥探偵處」

「盛岡本」のブックレビュー第三弾をお届けします。

今回、ご紹介するのは盛岡が誇る文化人2人が主役を務めるミステリー小説です。その名も「啄木鳥探偵處」(きつつきたんていどころ、伊井圭著)。盛岡出身の歌人・石川啄木が探偵役となり、同じく盛岡出身で親友の言語学者・金田一京助を助手役として難事件に挑みます。この設定を聞いただけで、なんとなくわくわくしてきませんか? 本書は2人の探偵活動を描いた5編が収録された連作短編集です。
詩歌の天才でありながらも貧しさや病気に苦しみ、お金や女性関係にだらしないところもあった啄木。そしてそんな啄木の才能に惚れ込み、援助を惜しまなかった京助。実際に親友同士だった2人の関係は、ミステリーのバディ(相棒)ものとしてもぴったり。有名なシャーロック・ホームズの時代から、天才的な探偵役とそれに振り回される相棒という構図はミステリーの王道です。
そして、この作品、アニメ化が決定しました!
主役の2人は現在残っている写真を思い出すと、雰囲気がよく出ているような気がします。

(画像引用元:「啄木鳥探偵處」https://kimikoe.com/kitsutsuki/)

2020年4月13日(月)から、TOKYO MXや、アニメ配信サイト、そして我らが「岩手めんこいテレビ」などで放送が開始されます。
公式サイトは、こちら

PV動画もありますよ。

TOKYO MXでは、4月13日より毎週月曜23:00~放送
岩手めんこいテレビでは、4月18日より毎週土曜17:00~放送
どんなアニメになるのか、今から楽しみですね♬

今回はそんな旬な盛岡本のご紹介。ぜひ、ご覧ください。

浅草を舞台に、啄木と京助が奇怪な事件に挑む

物語が幕を開けるのは、明治42年(1909年)の東京・浅草。
天才的な詩歌の才能を持ちながらも世間には認められず、日々の生活に苦しんでいた啄木は、ある日いきなり「副業として探偵を始める」と京助に宣言します。啄木は持ち前の強引さで、当時は國學院大學に勤務していた京助を半ば強制的に「探偵助手」に任命。京助は時にビビりながらも啄木の探偵活動を手伝うことになります。
2人が遭遇するのは奇っ怪な事件ばかり。浅草の名所だった高層建築・凌雲閣(現在は解体。書影の表紙の建物です)でたびたび目撃される幽霊の謎。人形の美しさに惚れ込んだ人気役者が、その人形の頭にのどをかみ切られるという猟奇的な「心中」事件・・・・・・。文明開化の明治時代も終盤にさしかかる帝都・東京。レトロとモダンが入り乱れる浅草の街並みの描写が、2人の探偵活動の臨場感をかきたてます。浅草の街を得意気に歩く啄木と、やや遅れて途方にくれた表情でついて行く京助の様子が目に浮かぶようです。
著者の文章は時代がかっているところがあり、時代小説や歴史小説になじみの薄い読者には読みにくく感じられるかもしれません。しかしいちど作品世界に入り込めば、どこまでも沈んでいけるような魅力ある文章だと思います。

盛岡市にある啄木新婚の家。「啄木鳥探偵處」で描かれるのは、啄木がこの家で暮らした頃よりもう少し後の時期になります

じわじわと死に向かう生活者・石川啄木を描く物語

ところで実はこの小説、「石川啄木の生涯最後の数年間」を描いた物語でもあるのです。啄木は明治45年(1912年)に亡くなっています。この物語が始まるのは明治42年。26歳という短命でその生涯を終えた啄木の人生を考えると、この物語で描かれる啄木は晩年の姿と言ってもいい。本書では、病魔にむしばまれ貧しさに苦しむ「生活者としての石川啄木」もしっかり描写されています。
5つの短編を収録する本書では、最後の1編を除いて、収録順に作中でも時間が経過します。つまり読者が読み進めればその分だけ、作中の啄木は死に向かってゆく。徐々に体調が悪化していき、しまいにはろくに立ち上がることすらできなくなってしまう啄木。病床で京助相手に減らず口をたたいても、体が弱っていくのは止められない。啄木が残した作品に漂う貧しさや病気へのむなしさが本書でも描写されています。
5つの短編では事件解決後、啄木が実際に詠んだ歌が引用されます。それらはいずれも、事件の経緯を表したような歌ばかり。作中では、啄木が事件の経緯を踏まえて短歌を詠んだという設定になっているのです。もちろん引用される歌は実在しているので、実際には作者がそれらの歌をもとに各短編を創作したということでしょう。本書で語られる悲しい事件とあわせて啄木の歌を読んでみると、すでに知っている歌でも、また違った味わいを感じられます。

物語の時点で金田一京助が勤務していた國學院大學。京助は國學院大學の名誉教授でもあります

名探偵・石川啄木の誕生にとある著名人が関わっていた?

ここからはちょっとした蛇足です。本書の最後に収録されているのは、探偵・石川啄木の誕生にまつわる(かもしれない)物語、「魔窟の女」。啄木の死後、彼の探偵活動をまとめていた京助が、若かりし日の2人が巻き込まれたとある事件を回想します。啄木が唐突に副業を始めたきっかけは生活苦が理由だと思い込んでいた京助ですが、ひょっとしたらあの事件がきっかけなのではないか・・・・・・と。
この短編には、実在したとあるビッグネームがゲスト出演しています(盛岡は関係ないけど)。推理小説好きなら作者の仕掛けた趣向にきっとニヤリとできるはず。過去を舞台にしたフィクションでは、同時代に存在した著名人同士の「あり得たかもしれない出会い」は大きな醍醐味です。
盛岡ゆかりの方にも、石川啄木のファンにも、そしてミステリー好きにもおすすめの「啄木鳥探偵處」。アニメ化の前に、ぜひ原作も手に取ってみてください。

【参考図書】
啄木鳥探偵處
著者:伊井圭
レーベル:創元推理文庫(東京創元社)

文:シュン

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