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インタビュー

仙台・福岡・京都よりもスコアが上!? まちづくりのプロに聞く、「盛岡」という街の魅力度 LIFULL HOME’S総研所長・島原万丈さんインタビュー

盛岡という街のランキングは、仙台や福岡、京都よりも上と聞いたら、「リトルもりおか」の読者のみなさんは、どのような感想を持つでしょうか? 「東北の中でも奥ゆかしい」なんて言われる岩手出身の方は、「いやいや、そんな大層な順位、めっそうもない」なんて思うかもしれません。
 でもこれ、全国2万人近くの人を対象にした調査の結果なんです! 2015年に発表された「Sensuous City[官能都市]——身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」(https://www.homes.co.jp/souken/report/201509/)という都市ランキングでは、盛岡市が全国134市区部の中で全体14位、東北1位という輝かしい結果を残しました(※福岡市が17位・仙台市が18位・京都市が24位)。
 そこで、今回は盛岡市民・出身者でも気づいていない盛岡の魅力について、この調査を行った不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営する株式会社LIFULL HOME’S総研所長・島原万丈さんにお話を伺いました。まちづくりのプロが読み解く、盛岡の知られざるポテンシャルとはどのようなものなのでしょうか?

株式会社LIFULL HOME’S総研所長・島原万丈さん


本当の街の「魅力」を考える指標を作りたかった

——まず、島原さんがこのリサーチを行った背景についてお伺いできますか?
 元々、僕が所属している組織で書いていたレポートの多くは、「住まい」についてのものでした。たとえば、住環境とか住み替えとかそういうテーマです。でも、やっぱり「住まい」を考えるという中で、「街」という視点が不可欠でした。どういう街に住むか。その街はどんな所なのか。そういうことを考える時に、明確な指標が無かったというのが出発点ですね。

——なるほど。街に関するランキングでいうと、「住みたい街ランキング」や「住みよさランキング」みたいなものを目にすることがあります。
 そうですね。ただ、僕としては本当の街の魅力を測ろうとした時に、旧来のランキングにはちょっと違和感があったんです。というのは、これまでのランキングというのは、「住みたい街ランキング」は人気投票で、「住みよさランキング」は病院の数や大型商業施設の敷地面積といった「ハコモノ」の充実度で街を測ってきたわけです。でも、僕が知りたかったのは、街の「感じの良さ」だったり「好ましさ」といった、もう少し感覚的な部分でした。レポートのタイトルである「Sensuous City(官能都市)」というのも、そのようなモチベーションから付けています。

——たしかに、これまでのランキングでは、あまりクローズアップされていない部分のように思います。
 そこで僕たちのレポートでは、そこに住んでいる人の「体験」に注目しました。たとえば「馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった」とか「公園や水辺で緑や水に直接触れた」といったものですね。質問では、こういった実際の行動や経験を聞くようにして、そのうえで8つの観点でランキングを作りました。①共同体に帰属している ②匿名性がある ③ロマンスがある ④機会がある ⑤食文化が豊か ⑥街を感じる ⑦自然を感じる ⑧歩ける です。


盛岡という街の特徴とは?

——そのランキングをもとにすると、盛岡はどんな特徴があるんでしょうか?
 まず、地方都市だけ抜き出してみると、ランキング上位に来ているのは、金沢(8位)、静岡(12位)、盛岡(14位)、福岡(17位)、仙台(18位)、那覇(19位)という並びです。僕としては、金沢が高いだろうというのは予想していたんですが、静岡や盛岡がこんなに高いというのは意外でした。
 次に、それぞれの項目について、盛岡のスコアを見てみましょう。


 

 これを見ると、盛岡は全体的にバランスがよいですね。特にこれといった弱点が無いと言えると思います。その中で特筆すべきは、「食文化が豊か」という項目ですね。これは、金沢・那覇・山形に次いで全体4位です。上位に来ている地方都市はだいたい、全体のバランスが良く「食文化が豊か」のスコアが高いという特徴がありますね。
 東北の各都市との比較もしてみましょう。グラフで見るとこんな感じです。



 まず、仙台と比べてみると、「共同体へ帰属している」「食文化が豊か」の項目で優れていることがわかります。仙台って東北随一の大都市ですが、よく見ると郊外ニュータウン的な性格も強い街なんですよね。そう考えると、「共同体へ帰属している」のスコアで盛岡が上回っているというのもうなずけます。
 次に、山形と比べてみましょう。注目したいのは、「匿名性がある」「ロマンスがある」といった項目で、盛岡が上回っていることです。これに「機会がある」を合わせた3つの項目を、僕は都会的な指標として考えているんですが、盛岡は決してこの項目が低いわけではありません(匿名性:東北1位、ロマンス:東北1位、機会がある:東北2位)。その意味では、盛岡は案外都会的な要素も持っているということです。
 最後に、青森・福島との比較です。「街を感じる」や「歩ける」といった項目で大きく上回っていますね。青森や福島のスコアの形は、車社会の街に多く見られるもので、これらの項目が低い傾向にあります。逆に言えば、盛岡は歩いて楽しい街で、街の風景をゆっくり眺めたり、遠回りや寄り道をしたりすることが多いのかもしれません。

——こうやって見てみると、盛岡の特色がよくわかる気がします!
 あと、これは個人的な感想ですが、新幹線が止まるくらいの規模の街で、駅から降りたらすぐ山が見えて、その近くの川にサケが登ってくるなんていうのは、実は貴重な風景ですよ。僕も出張で色々な街に行きますが、そんなところなかなかありません。あとは、喫茶店文化なんかも、共同体のスコアが高い要因かもしれませんね。今回の調査でいう「共同体」は、閉鎖的なムラ社会みたいなことではなくて、お店で常連と話したというくらいのカジュアルなものをイメージしています。盛岡にはそういう良さもあるように思います。


与の字橋から見た中津川の風景


盛岡の人こそ、自分が住んでいるところの良さを自覚していない

——では、今回のランキングを踏まえると、今後盛岡はどういう点に注力すればよいのでしょうか?
 あらためて、盛岡という街はとてもバランスが良くて、ここがすごく弱いというのはないんですね。むしろ、考えるべきなのは、この強さ・良さを盛岡の人が自覚していないということなんです。繰り返しになりますが、新幹線が止まるような規模の街で、自然があり、食文化があり、魅力的な街並みがあるというのは、本当は稀有なことなんです。だから、まず一歩目として、自分の街の強さを自覚するというだけで、大きく変わると思います。
 同じような話ですが、「食文化が豊か」のところで聞いた質問に「地元の食材・お酒を楽しんだ」といったような項目があります。おそらく、どこの街も地元のものを食べたり飲んだりしているはずなんです。でも、今回の調査では実際の「体験」を聞いているので、「地元のものを食べている」という意識がないまま食べていると、このスコアは上がりません。逆に言えば、盛岡の場合は、その認識がかなりあるということでしょう。

——たしかに、食材やお酒なんかは、折に触れて「地元のものだな」と感じることが多いかもしれません。
 あと、これは盛岡に限らず地方都市全体に言えることですが、図書館やホールといったハコモノを作ることで振興するというのは、もはや幻想だと考えています。今回の調査も同じような姿勢で実施しているのですが、ハコの前に経験があるはずなんです。「公園が欲しい!」の前に、「走り回りたい!」や「水に触れたい!」があるんです。「木陰で休みたい」というニーズがあるのであれば、一から木を植えるのではなくて、今ある木の下に椅子を置けるようにすればいいんです。そういう意味では、それぞれの街でどういう体験・暮らしをしたいのか、という点から考えていくというのは重要でしょうね。

——ありがとうございます。後は、どうやってこの魅力を盛岡の外部の人に伝えればよいかということも気になってきました……。
 そうですね、僕たちの仕事からはワンクッション置いた話になるので難しいところですが、いわゆる「映える」みたいな、わかりやすい観光戦略に乗らなくても良いと思いますよ。量としての魅力を追ってしまうと、良さが埋もれてしまうと思います。同じゲームの土俵に乗らずに、わかる人だけわかるという感じでも良いのではないでしょうか。


「東京 or 地方」から「東京 and 地方」へ

——最後に、このサイトは「首都圏にいる盛岡関係者」に向けたものなのですが、首都圏と地方のこれからについてもお伺いできますか?
 一般論として、東京や三大都市圏には人が集まることによるメリットがありますよね。仕事もそうですし、プライベートでも様々な機会があるでしょう。もちろん、人が多いことによるデメリットもあって、満員電車なんかはわかりやすい例ですし、生活のコストも高いです。
 でも、それとは別に、もうそろそろ「東京か、地方か」という問いの立て方自体が機能しなくなってくると思います。この問いは言ってみれば住民票ベース・定住人口ベースの考え方で、その場合はたしかに東京と地方のどちらかを選ぶことになるでしょう。でも、今はそうではない考え方もありますよね。コロナ禍で多拠点生活も現実的な選択肢になっていますし、東京にいながらにして盛岡に関わることもできるし、その逆もできるはずです。盛岡の生活コストで東京のメリットを受け取ることができたら、最高ですよね?

——最高です!
 そういうあり方って、現実的になってきていると思いますよ。「or」ではなくて「and」で考えられる時代はそう遠くないと思います。もちろん、交通の弁が良いと人が多いところに吸い寄せられてしまうというのはあるので、その点は考える必要はあると思いますが。でも、両者の良いとこどりをするというのがベストなわけで、それを目標にするというのが、お互いにとって良い関係なのではないでしょうか。

——たしかに、都市と地方に対する考え方もアップデートしなければいけないですね。お話、ありがとうございました!



聞き手・ナカムラ コウタ

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