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インタビュー ヘラルボニー 文化祭

【リトルもりおか文化祭ゲストインタビュー・2】盛岡から、“異彩を、放て。”  ヘラルボニー・松田文登さん

 
“異彩を、放て。” 岩手・盛岡を愛するモリオカンならば、この印象的なフレーズを耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。リトルもりおか文化祭・ゲスト紹介記事の第2弾は、福祉施設に所属するアーティストとともに、盛岡の地から新たな文化を創造・発信するアートライフブランド「ヘラルボニー」です。12月12日のリトルもりおか文化祭では、オンライン上でアート作品の美術館を披露していただきます。
岩手・盛岡の地から、ヘラルボニーが何を仕掛けようとしているのか。なぜ岩手に拠点を置いているのか。そして、オンライン美術館の見所とは……。自らも盛岡に暮らすヘラルボニー副社長の松田文登(ふみと)さんにお話をうかがいました。
 

ヘラルボニーは「障害」イコール「個性」の未来を創る

――ヘラルボニーさんの主な事業内容を教えてください。
日本全国にはアートに特化した福祉施設がたくさんあります。岩手県でいえば、花巻市のるんびにい美術館を社会福祉法人が運営しています。私たちはそれらの福祉施設とアートのライセンス契約を結ばせてもらい、知的障害のあるアーティストのアート作品を通じて、さまざまなモノやコト、バショに落としこんでいきます。アートというフィルターを通して知的障害のある人との出会いを作ることで、障害のある方々に対する世間のイメージを根本的に変えることを目指しています。

「障害」と口にした途端に「欠落」を連想したり、「さあ重い話のスタートだ」という空気感になったりする現状を変えたいのです。そうではなく、「障害」イコール「違い」であったり、「障害」イコール「個性」にしていきたい。そんな未来を創っていきたいと思っている会社がヘラルボニーです。

具体的な事業としては、大きく分けて3つ展開しています。1つ目はアート作品の原画の複製画の事業。これに関して、実は盛岡市菜園にギャラリーをオープンする予定でいます。私たちは花巻市で創業しましたが、ギャラリーのオープンとあわせて盛岡市に本社を移転します。2つ目は先ほどお話ししたアートのライセンス事業。3つ目はアートライフブランド事業と言って、これはアパレルにあたります。

ライセンス事業では全国の障害のあるアーティストの作品を高解像度データでアーカイブ化して保有させてもらっています。現在約2000作品保有していて、それらの作品を社会実装、つまりさまざまな企業さんに使ってもらったり、私たちで独自に納品したりしています。
 

ヘラルボニーは、さまざまな企業とともにアートの社会実装を行っている

 
――障害のあるアーティストの方々と実社会の橋渡し役をヘラルボニーさんが担っているのですね。
ヘラルボニーは、知的障害のあるアーティストの方々をビジネスパートナーと呼んでいます。「支援」や「貢献」の文脈ではなくビジネスにしていくことで、お情けで買っているのではなく、「単純に格好いいから買っている」という消費行動を作っていくことを目指しています。日本ではこの分野のマーケットはまだ小さく、「知的障害」と喋った途端に支援や貢献の土俵に乗ってしまいがちです。そうではなく、ちゃんとしたアート目線で捉えていくことがとても大切です。 来年度からはがっちり海外展開も視野に入れています。海外でしっかり評価を得て、日本に戻していく流れを作っていこうと思っています。
 

会社名は、兄が自由帳に繰り返し書いた謎の言葉

――ヘラルボニーというユニークな会社名にはどんな由来があるんでしょうか?
私たち(文登さんと、双子の弟で社長の崇弥さん)より4歳上の自閉症の兄が、7歳のころに自由帳に書いた謎の言葉が「ヘラルボニー」で、そのまま会社名に採用しました。「ヘラルボニーってどういう意味なの?」と兄に尋ねると「わからない!」と返されるのですが、複数の自由帳に登場しています。なので、兄にとっては何かしら意味があるものの、それを言語化できていないだけなのだろうと推測しています。
同様に、障害のある方々が心ではすごく楽しいと思っていても、なかなか言語化できていないことはたくさんあると思っています。そうしたものを私たちが言語化して社会に出していくことで、「一見して価値がないものを価値付けしていける会社でありたい」という意味合いも社名には込めました。

――ヘラルボニーさんのミッションは“異彩を、放て。”です。このとても印象的なミッションは、具体的には何を意味するのでしょうか。
これは福祉領域の方々だと言いづらいことかもしれませんが、私たちは「知的障害のある方々は普通じゃない」と伝えています。ただし「同時にそれは可能性である」ということを付け加えています。知的障害のある方々を「異彩」と定義し、それを全国各地に放っていくことで、障害のある方々のイメージを変えていこうという意図です。アート作品をさまざまな形で社会実装していくことも異彩を放つことですね。私の兄はアートは描けませんが、アートへのリスペクトが生まれていく世界を作ることができれば、最終的には兄の個性にも紐付いてくると思っています。
 

 

岩手・盛岡に拠点を置くことで生まれる意味と価値

――ヘラルボニーさんにとって、岩手や盛岡はどんな土地でしょう?
まず、なぜ私たちが岩手で創業したかというと、いろいろなご縁があってのことなんです。私たちの母方の実家が花巻市だったことに加えて、自分たちはるんびにい美術館からスタートしたのだという気持ちもありました。そうした私たちの初心やアイデンティティを忘れたくない、という意味合いを込めて、2018年に岩手県花巻市からヘラルボニーを始めました。

盛岡は……単純に、好きなんです(笑) 地区ごとにいろんな「盛岡」がありますよね。私自身、河南地区に暮らしていますが、紺屋町も好きだし、鉈屋町も好きだし……そうした歴史的な景観が残る地域もあれば、菜園のようにお店がたくさん並んでいる地域もある。個人的には、住んでいて一番気持ちのいい街です。
私は金ケ崎町出身なんですが、これまでいろんな土地に住んできました。高校時代は大野高校で卓球に打ち込むため洋野町で下宿生活をし、その後は仙台に行ってそれからもいろんな土地を経て、いま盛岡に暮らしています。あちこち暮らしてきた経験から言っても、盛岡は本当に良いところです。

――盛岡愛がすごいですね! もうすぐギャラリーもオープンするとのことですが、ビジネス的な戦略でも盛岡は重要なんでしょうか?
地元向けというよりは、外から盛岡を訪れる方々向けの意味があります。盛岡を訪れた人が盛岡駅で降りて、橋を渡って岩手山を見ながら菜園にある私たちのギャラリーまで歩いて来てもらうことで、盛岡の街の空気感を感じてもらいたい。全国の方々に「ヘラルボニーって岩手だよね」と思ってもらいたいんです。
世界各地で展開している(アウトドアブランドの)スノーピークの本社は新潟にあり、その地を盛り上げています。それがすごく格好いいなと。ビジネスの大きさだけを求めるならば東京に集中した方がいいのかもしれませんが、あえて地方ローカルから発信することに意味があると思っています。「ヘラルボニーは岩手発」というのを、岩手という場所に機能として持たせたい。「障害のあるアーティストのクリエイティブエージェンシーが岩手・盛岡にある」と世間に認知されることを目指したいんです。
 

盛岡・川徳百貨店にも出店

 
――ヘラルボニーイコール岩手、というブランドイメージを実現するために、盛岡という土地が適しているということでしょうか?
そう思っています。ただ、私が本当に盛岡が好きだからという気持ちの面も強いです。東京など遠方から盛岡にお客さんが来たら、案内したい場所が盛岡にはたくさんあります。

――実際のところ、盛岡は異彩を放てる土地でしょうか?
放ちたいですね!(笑) ヘラルボニーはブランドとしても、岩手からスタートしたということをしっかり打ち出しています。百貨店への出店も、あえて盛岡の川徳百貨店からスタートしたかったんです。これはブランドとしてのスタンスを提示する意味もあります。ビジネス的な目線だけを考えるならば、岩手からの収益は決して大きくありません。しかしそれでも盛岡での百貨店出店やギャラリー開設にこだわったのは、ヘラルボニーとして岩手や盛岡を大切に思っているというメッセージです。

岩手を拠点にしていて、嬉しかったことも多いんです。先日、私が盛岡市内のスーパーでヘラルボニー製のマスクをしていたら、レジ打ちの方に「ヘラルボニーのマスクね!」と言われて。私のことも知ってるのかな? と思ったんですが、私のことは全く知らず(笑) マスクの柄でヘラルボニー製とわかってくれたみたいです。こんなに幸せなことはないなと思いました。東京だったら、なかなか見られない光景ですよね。岩手だからこそブランドが広がりやすいですし、地域の人たちに応援してもらえて、そこに行政も絡んでもらって。岩手で活動することで、私たちの幸せの価値は上がっているように感じます。

この話の嬉しいポイントはもう1つあって、私たちはヘラルボニーと聞くだけで誰もが柄を思い浮かべるような世界を目指しています。そうなれば、本当の意味で障害のある方のイメージが変わってくると思うんです。私たちが成功するんじゃなくて、アーティストが成功する社会を目指したいと思っているので、そういう意味では一番理想的な声のかけられ方でした。
 

初めての「自分たちの場」となるギャラリーに多くのお客さんを

――ヘラルボニーにとって、岩手を拠点に活動している意味が確かにあるわけですね。
川徳百貨店でお客様と話していても、岩手のブランドだと説明すると驚かれることもあるので、そういう意味でインパクトはあるようです。最近は講演会などで、学生さんたちに向けてお話しする機会も増えてきました。その中で学生さんたちから、「ヘラルボニーみたいなブランドが岩手からスタートしていることが嬉しい」という感想を聞くことがあります。
もしヘラルボニーが東京からスタートしていたら、それは「当たり前のこと」で終わっていたかもしれません。岩手からでも新しいものを作り上げられるんだよ、と若い世代に伝えられること自体が幸せなことだなと思います。

新たに開設するギャラリーも素晴らしい場所になるはずです。日本を代表する建築士さんや照明デザイナーさんに担当してもらっていて、単純に建築としてもレベルの高いものになるはずなのでとても楽しみにしています。私たちにとっては初めて「自分たちの場」を持つことにもなるので。ギャラリーでイベントもどんどん開催できるようにしたいと思っています。
今後はウェブ上のECサイト運営にも注力しつつ、お客様に実際に盛岡に足を運んでもらいアートに触れてもらえるような世界を作りたいと考えています。

――盛岡愛あふれる文登さんにとって、「盛岡で特に好きなこと」があれば教えてください。
たくさんありますが……冷麺なら「もりしげ」が好きです。焼き肉なら「肉の米内」が美味しい。「たかみや」のチャーシュー麺もいい。盛岡は美味しい飲食店が多いのも魅力ですね。いい飲み屋さんもたくさんありますし。

――美味しいお店、多いですよね! 文登さん個人のお考えで構わないのですが、ほかの地方都市と比べて「これぞ盛岡だな」という街の特長があれば教えてください。
中津川です! 私は中津川沿いの景観がすごく好きで、当初はその周辺にギャラリーを構える構想もありました。物件の空きがなく残念ながら断念しましたが、盛岡の川は特別な魅力があるなと感じます。
 

中津川沿いの景観

 
――リトルもりおかは、盛岡に関わりたい首都圏の20~30代によるコミュニティーです。盛岡との関わり方という意味では、盛岡を拠点に全国で発信するヘラルボニーさんとはある意味、真逆です。リトルもりおかに何か期待することはありますか?
盛岡の人たちが東京に集まっているというのは、すごく良いことだと思います。東京でバリバリ仕事をしている人たちが盛岡と関わることで、盛岡の仕事も盛り上がるんじゃないでしょうか。そういう関係人口の在り方って素晴らしいなと、傍から見ていて思います。「岩手の中だけでやっていこう」だと、どうしても縮こまってしまいますから。

私たちは新たに盛岡にギャラリーを構えますが、これはとても大きな決断でした。これから何年もかけて、盛岡の地でさまざまなことを積み上げていくことになります。そのときにリトルもりおかのモリオカンの皆さんと関われるのはありがたいことです。首都圏から岩手や盛岡に帰省した際には、ぜひ一番最初にヘラルボニーのギャラリーに遊びに来てほしいです!
 

オンライン美術館のイメージ

 

岩手出身アーティストの人生観に触れるオンライン美術館に

――12月12日のリトルもりおか文化祭では、オンラインの美術館を披露していただきます。このオンライン美術館の見所や楽しみ方を教えていただけますか?
今回のオンライン美術館では、アーティスト個人がどんな人間なのか? ということまで知ってもらえると思います。これまで知的障害のある方と直接的な出会いがなかった方々にも、アートというフィルターを通じて出会っていただけます。ただアートを見て終わりではなく、アーティストの人生観に触れる機会になるはずです。見ている方が、アーティストのことを「障害者」ではなく、最終的には「○○さん」という個人として認識してもらえるような美術館になったらいいなと思っています。今回は岩手の作家さんの作品で構成する予定なので、首都圏からでも岩手や盛岡を感じてもらえると思います!

――貴重なお話、ありがとうございました。オンライン美術館を楽しみにしています!


ヘラルボニーのオンライン美術館が楽しめる!
リトルもりおか文化祭〜異彩、多彩、断然、盛岡。〜のオンラインチケットは下記URLよりお申し込みください。
 URL:https://moriokabunkasai.peatix.com/

画像提供:株式会社ヘラルボニー
聞き手:シュン


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